死の都 AT 新国立劇場

死の都 AT 新国立劇場
特設サイトはここ
http://www.nntt.jac.go.jp/opera/dietotestadt/
とにかく久しぶりに
さすが、と思わせる公演でした。
ここ数年、新国立劇場では
影のない女」「前々回のフィガロ」「前回のドンジョバンニ
ローエングリン」「ルサルカ」が印象深かったですが
今回のもそれらと匹敵する内容だったと思います。
音楽が良い。そして、モチーフと音楽が違和感なく作られているので
演奏する側も演奏しやすいのか、とても充実した演奏でした。
東京交響楽団は「影のない女」や「死の都」など、
人間の内面をえぐるような内容のオペラではいい演奏をするみたいです。
内容はと言う前に
このテーマは、人間の偏執狂的一面を、愛するということを、目標とした場合に
起こる、人間の内面でのさまざまの常識外のことを捉えてみる、整理再構築して
みるということでしょう。このことは
人間の弱さを婉曲的に扱っていると思います。
これを弱さとしてとらえないとすると、デカダンなどの芸術的分野として扱われ
るのでしょう。
私はこの、主人公の夢につけられている音楽が
物語や心象にかなり忠実に沿ってつけられているので、テーマを正攻法で音をつ
けて完成させていると思います。ですから作曲家においてはあまり、おかしいところは
ないと思います。きっと。
最終的にはこの物語はハッピーエンディングなんですが
それまで、すなわち、社会的人間として自分を取り戻すまでの過程がオペラになっ
ているのです。
そして、肝心の妻との恋愛や結婚生活は蚊帳の外。妻が死んでから世界です。
本当に愛していたのでしょうか?
愛しているという行為に酔っていたのでしょうか?定かではありません。
そして、このオペラでは
死後も妻の所持品を大事にコレクションをしているという異常な状況が所与とし
て与えられます。この状況を捨てること、すなわち正常に戻る(ここも、そう判
断してよいのか問題ありかも知れませんが)時が大団円です。
さてと感想を。
指揮者は「ルサルカ」の時も良かった、キズリングですが今回も爆発的にいい音
をオケから引き出しておりました。
日本人キャストもとてもよく、、特に第2幕すごく締まりました。
ゲストは主人公パウルのケールの声は迫力がなく、このオペラの主人公らしく臆
病で繊細な声と捉える事が出来るのでしょうが、その効果を狙って歌っているわ
けではなさそうですし、その効果を狙ってのキャスティングでもなさそうです。
単に、単純に声が出ていないということでしょう。
第3幕では若干良くなりましたが。これもここで、主人公は変化、ないしは前向
きに変わるので、もしかして演技なのかもしれませんが。。。。不明です。声の大きさは弱いとだけは言っ
ておきましょう。第1幕山下さんとのやり取りで、圧倒的に山下さんの声がしっ
かりしておりました。
さてとこの幕で出てくるマリエッタは、結局は亡き奥さんのイメージを重ねるこ
とのできる対象としてたまたま登場するのですが、その後、主人公の夢の世界の
中で大活躍をします。夢というか妄想ですが。。。。汗
この妄想の中ではこのマリエッタとは敵でもあり、愛の対
象ともなるのです。しかし一貫しているのは死んだ妻との間に流れる音楽は
甘美なものですがマリエッタにつけられるのは一貫性のない音楽が多いというこ
ともマリエッタの存在の多様性を示していると思います。マスの提示なんです。
この辺の駆け引きがとても面白く第1幕は終わります。しかし終わり際に劇的に
第1幕は終わりますよ、という合図の音楽が流れるなんて、芝居みたいだなあと
思ったものです。
そう、この芝居、というフレーズがぴったりするようなオペラでした。ですから、
芝居が好きな人や、下手をするとピンクフロイドの「The Wall」等にインスパイ
アされたロックファンにもアピールできる作品ではないでしょうか?
さてと第2幕
やはり序曲みたいなものが入ってきます。作りがエンターテイメントなんですよ。
この幕は
かなり過激でマリエッタの仲間たちの出てきた後の一連のシーンはかなり秀逸な
出来栄えでもとの脚本、音楽とともに
演出もさえておりました。ピエロなんて最高でしたし、ダンサーを使うなんて言
うのも(当然コンテンポラリー)、いいアイデアだと思いました。ここでは女の
怖さがふんだんに出ておりましたね。いわゆる、無秩序で、自然的な女性観です
ディオニソス的)。
これに対して主人公は、整理して、自分の中では秩序ある空間を維持している点
で男性的(アポロ的)なんでしょう。まあ、ここまで飛躍することはないのでしょ
うが
2幕の劇中劇は最高でした。
それは世俗の愛。道を歩いている普通の人の愛の形です。これを受け入れられる
かどうかが主人公の試練なんです。
3幕は女の闘いがあります。
マリエッタと亡き奥さんですね。そのなかでマリエッタは成長します。
闘い、いや相対評価の中で愛は育たない、愛は男を、自分の好きな人を愛するこ
とだと悟るのです。
ここは主人公の成長と対になることなのでしょう。
歌手の話に戻りますと
このマリエッタ役のミラーは2幕3幕もかなり迫力がありました。
フェラチオもどきのシーンも出てきますし、、、、。汗
このあたりは主人公が征服されたのでしょう。それまでは
主人公の偏執狂的愛の思いがマリエッタといたるところで対立します。ですから
ここでの音楽は激しくもあり、変化もありで音楽的にさまざまな要素を組み込ま
れているという感じです。それは音楽詩とさえ言うことが出来るものです。
そして主人公の偏執狂的こだわりが克服された時
普通の世俗の世界に向けて
旅立つという話のような気がしました。まあ私の勝手な解釈ですが
それがオペラとして成り立ち、かなりよい音楽、演奏というのがとても衝撃でし
た。見るべきものはいくらでもあると思います。ぜひ。